GOKOTI平山遥さんおいしい旅の記憶

これまで国内47都道府県・世界40か国を訪れ、食べて、語らって、その土地の暮らしに触れながら、旅をしてきた平山遥さんのコラム。連載第7回は、カリブ海に浮かぶ島国キューバへ! 歴史に翻弄されてきたかの国で、あふれるほどのモノや情報からちょっと離れ、精神の強さと豊かさに触れられます。

#7 こころのビタミン「キューバフード」〜ラテン音楽とポップカラーを添えて〜

プロローグ 〜カリブ海の島国「キューバ」は、今を楽しむ力強さで充満しています〜

2019年11月。「キューバは行った方がいい」と旅の達人たちがみな口にするのが気になって、首都ハバナを訪れました。数奇な運命をたどってきた国ゆえの、ノスタルジーワールド。半世紀前の姿がそのまま、広がっていました。そこに、今を全力で楽しむキューバ人が愛するラテン音楽やお酒、ダンス、美しい海が、彩りを与えているようでした。今回は、日本でにぶっていた「幸せを感じるちから」を活性化させ、こころに栄養を与えてくれたキューバ旅をご紹介します。



▲旧市街はバロック建築が連なる一方で、老朽化が激しい民家や建物も路地裏に点在。アメリカとの国境正常化で、少しずつこの風景も変わっていくのでしょうか

 

Wi-fiが当たり前じゃない国だったから、潮の匂いやリズムまで鮮明に思い出せます

キューバは首都ハバナでもネット環境が悪いです。Wi-fiカードを購入し、数少ないWi-fiスポットでID・パスワードを入力してのみ接続が可能。「海とか山奥じゃないのに!?」と驚くと同時に、Wi-fiが使えず焦った自分にショックを受けました。ここまでスマホやネットに依存していたなんて。

この旅はネット環境と距離を置くいい機会だと考え、滞在期間中は撮影以外デバイスを使わず、全神経を目の前のキューバに集中させました。だからでしょうか。クラシックカーから見た街並み、肌を撫でる潮風、旧市街の散歩で聞こえてきたマラカス、本場モヒートの強い味など、鮮明に覚えています。


▲革命ストーリーを聴きながら見たチェ・ゲバラのモニュメントと青空はまぶしかったです

 


▲ダンディーなおじさまによる路上演奏。迫力ある声量と陽気なパーカッションに元気をもらえました

 


▲モロ要塞から眺める黄昏どきの景色。爽風に当たりながら、空と街の移り変わる表情に見惚れました

 

目を閉じたらまぶたの奥にすぐ蘇るほど、印象深かった情景が「カジェホン・デ・ハメル」です。一言でいえば、奇抜すぎる屋外美術館。昔アフリカから奴隷としてキューバに連れてこられた黒人たちによって生み出された「アフロキューバ文化」が、路地いっぱいに表現されています。廃材となった自転車やバスタブを芸術に活かすセンス、逆境をアートや音楽ではね返してきた力強さが伝わってきます。勇気づけられるというか、ポジティブにさせてくれるアートストリートでした。


▲もはや色彩のデパート。アート・ストリートを歩くだけで、絵画の一部になった気分に


赤飯?生姜焼き?キューバの家庭料理は、和食の親戚にちがいない。

キューバ旅のハイライトは、カサ・パティクラル(国から認可を受けたキューバの民泊)での料理教室です。家庭料理を教えてくれるリリーさん、日本語ぺらぺらの通訳ダニエルさんと一緒に、朝9時から食材の買い出しへ。立ち寄った野菜市場は、日本の市場やスーパーに比べると品薄な印象を受けます。でもキューバでは、最低限の食料があれば十分だとダニエルさんは言います。キューバにいると、本当の豊かさって何なのか考えされられました。


▲市場でもやっぱりラテン音楽が(笑)。有機農法で作られた野菜やフルーツを購入

 観光客がほぼ通らない路地裏を歩くこと5分。リリーさんのご自宅兼カサに到着しました。可愛らしいタイルキッチンをお借りして、さっそく調理開始です。この日の献立は、キューバ料理の定番4品でした。

・Congrí(コングリ)黒豆の炊き込みご飯
・Bistec de Cerdo(ビステキ・デ・セルド)ポークステーキ
・Yuca con mojo(ユカ・コン・モホ)ユカ芋のニンニクソースかけ
・Ensalada(エンサラダ)グリーンサラダ
 


▲タイル壁のキッチンが可愛らしい。キューバの暮らしぶりを垣間見られる体験でした 

 


▲英語は通じなくてもすぐ仲良くなれたリリーさん。料理の腕前もさすがです

 

ボウルじゃなく掃除で使うバケツでの調理や、使い古された感の調理器具と最低限の食料品しか並んでない環境は、日頃わたしが立つキッチン事情とはだいぶ違いました。なのに、日本で自炊しているのとさほど変わらない感覚を覚えたんです。その理由は、調理手順や調味料がなじみのあるものばかりだったから。ポークステーキは「豚の生姜焼き」、コングリは「赤飯」に、つくりかたも、見た目も、味も、結構似ていたんです!思わず「同じ島国だからなのか?」なんて発想してしまうほどでした(笑)


▲調味棚の1番右に見慣れたチューブがありませんか?なんと、日本の「わさび」です


▲(ビステキ・デ・セルド)豚肉とスライスした玉ねぎに、ニンニクやレモン汁などの調味料で下味をつける工程も、慣れ親しんだものです


▲(コングリの調理風景)炒めたニンニク、玉ねぎ、ピーマンのみじん切り、コリアンダーの入った炊飯器に、研いだ米と事前に煮た黒豆を煮汁ごと加えて炊きます


▲コングリ&ビステキ・デ・セルドの出来上がり。赤飯と豚の生姜焼きに似ていませんか?(笑)


▲ユカ・コン・モホの出来上がり。塩加減もよくニンニクも効いているので食べやすいです

出来上がったご飯を、みんなでおいしくいただきます。どれも素朴かつシンプルな日本人好みの味付け。ほっとするご飯だったので、ついついおかわりまでしちゃいました。

日本語、英語、スペイン語が飛び交うなか、彼らの生活観や文化に触れているうちに、「分け合い、助け合う」温かさや、欲張ることなく今を謳歌する姿勢を美しいと感じるこころを取り戻すことができた気がして。おなかだけじゃなく、こころまでまんぷくになりました。


▲息子マルコスくんとは、日本アニメ「ワンピース」の話で大盛り上がり

 

エピローグ 〜ラテン音楽と「ダイキリ」は、暮らしの一部になりました〜

すっかりキューバ文化に感化されたわたし。朝はラテン音楽を流しながらコーヒーを淹れます。休日の夜、鎌倉のお店でキューバのお酒「ダイキリ」「モヒート」を飲む機会が増えました。キューバのエッセンスがさりげなくプラスされたことで、今まで以上に何気ない日常が楽しく感じられるようになった気がします。他の旅人から言われたように、この記事を読んでくださったかたにぜひお伝えしたいです。「キューバは行った方がいい」


▲キューバのフローズンスタイルの「ダイキリ」は、クセになるおいしさでした!

▲名店「ラ・ボデギータ・デル・メディオ」でヘミングウェイが愛したモヒートを試飲。ミントの存在とアルコール度数が強めで、パンチが効いてました(笑)

 

これまでの連載はこちら▶おいしい旅の記憶


平山 遥 Hirayama Haruka
カナダ・トロント生まれ、東京育ち。数年前から鎌倉暮らし。リクルートコミュニケーションズで、広告制作ディレクション・WEBマーケティング・サービスデザインの領域に従事。現在はコンサルタント業を中心に、フードコーディネートアシスタントとして奮闘中。週末の海辺散歩、月に1度の国内旅行、年に1回の海外旅行でリトリートするライフスタイルを満喫しています。Instagram:@travelife_haruka0530

SNSでシェアする